厚生省・脳死に関する研究班「脳死の判定基準」1985
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脳死の考え方
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1.全脳死をもって脳死とする。
2.ひとたび脳死に陥れば、いかに他臓器への保護手段をとろうとしても心停
    止に至り、決して回復することはない。

まえがき
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 脳死の判定は、脳死の概念、脳死の判定方法を十分理解、習熟したうえで行
われなければならない。判定基準を個々の症例に適応する際は、まず前提条件
を完全に満たし、次いで判定上の必要項目の検査結果が、すべて要求と一致し
なければならない。

1.前提条件
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(1) 器質的脳障害により深昏睡および無呼吸を来している症例深昏睡とは3−
    3方式では 300、グラスゴー・コーマ・スケールでは3でなければならな
    い。無呼吸とは検査開始の時点で、人工呼吸により呼吸が維持されている
    状態である。

(2) 原疾患が確実に診断されており、それに対し現在行いうるすべての適切な
    治療をもってしても、回復の可能性が全くないと判断される症例脳死の原
    因となる疾患は、病歴、治療、経過、検査(特に画像診断)などから確実
    に診断されていなければならない。この場合、適応と考えられるあらゆる
    適切な治療が行われていることが前提である。もし、原疾患を明確にでき
    なければ脳死の判定をしてはならない。

2.除外例
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 患者が深昏睡、無呼吸であっても、脳死判定に際しては次のような症例を除
外しなければならない。

(1) 小児(6歳未満)一般に小児では脳死判定を特に慎重に行わなければなら
    ない。小児でも脳機能の不可逆的喪失の判断は可能であるが、6歳未満の
    乳幼児では心停止までの期間が長い傾向もみられるので除外する。

(2) 脳死と類似した状態になりうる症例

    1)急性薬物中毒急性薬物中毒を除外する。問診、経過、臨床所見などで、
    少しでも薬物中毒が疑われるときは脳死の判定をしてはならない。問診が
    できないときはなおさらである。最も確実な方法は血液中の薬物の定量で
    あるが、いつでもどこでもできるとは限らず、定量には時間を要し、薬物
    の半減期も個人差が大きい。

    2)低体温低体温は反射を減弱させる可能性があるので、直腸温で32゜C
    以下の低体温があれば、脳死判定をしてはならない。低体温があればブラ
    ンケットなどで加温する。

    3)代謝・内分泌障害肝性脳症、高浸透圧性昏睡、尿毒症性脳症などが代表
    的であるが、これらにはなお可逆性が期待される場合があるので除外する。

3.判定基準
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(1) 深昏睡3−3方式では300、グラスゴー・コーマ・スケールで3でなけ
    ればならない。顔面の疼痛刺激に対する反応があってはならない。

(2) 自発呼吸の消失人工呼吸器をはずして自発呼吸の有無をみる検査(無呼吸
    テスト)は必須である。

(3) 瞳孔瞳孔固定し、瞳孔径は左右とも4mm以上

(4) 脳幹反射の消失

    a)対光反射の消失
    b)角膜反射の消失
    c)毛様脊髄反射の消失
    d)眼球頭反射の消失
    e)前庭反射の消失
    f)咽頭反射の消失
    g)咳反射の消失自発運動、除脳硬直、除皮質硬直、けいれんがみられれば
    脳死ではない。

(5) 平坦脳波上記の(1)〜(4)の項目がすべて揃った場合に、正しい技術基準を
    守り、脳波が平坦であることを確認する。最低4導出で、30分間にわた
    り記録する。

(6) 時間経過上記(1)〜(5)の条件が満たされた後、6時間経過をみて変化がな
    いことを確認する。二次性脳障害、6歳以上の小児では、6時間以上の観
    察期間をおく。

4.判定上の留意点
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 上記判定基準を応用するにあたって、次の事項に留意する。

(1) 中枢神経抑制薬、筋弛緩薬などの影響脳死に至るような症例では、集中治
    療中にしばしば中枢神経抑制薬、筋弛緩薬などが用いられるので、予想さ
    れる薬物の効果持続を考慮し、これらの薬物の影響を除外する。筋弛緩薬
    の効果残存をみるには、簡単な神経刺激装置が有用である。刺激により筋
    収縮が起これば、筋弛緩薬の影響は除外できる。

(2) 深部反射・皮膚表在反射本判定指針では、深昏睡を外的刺激に対する無反
    応と定義したが、いわゆる脊髄反射はあってもさしつかえない。したがっ
    て深部反射、腹壁反射、足底反射などは消失しなくてもよい。脳死で脊髄
    反射が存在してもよいという考えは、多くの判定基準で認められている。

(3) 補助検査脳死判定には種々の補助検査法が用いられているが、本判定基準
    では脳波を重視し必須項目に入れた。脳幹誘発反応、X線CT、脳血管撮
    影、脳血流測定などは、脳死判定に絶対必要なものではなく、あくまで補
    助診断法である。

(4) 時間経過検査を反復する目的は絶対に過誤をおかさないためと、状態が変
    化せず不可逆性であることを確認するためである。本判定基準で示した時
    間(6時間)は絶対に必要な観察時間である。年齢、原疾患、経過、検査
    所見などを考慮し、個々の症例に応じてさらに長時間観察すべきである。
    脳死の最終判定を何時間後に行うかは、原疾患、経過を考慮した医学的判
    断の問題である。
     参考までに、英国基準では、初回検査までの無呼吸あるいは無呼吸・昏
    睡の原因と持続を問題にしており、再検査の時間を規定してはいない。こ
    のような考えはアメリカの共同研究にも現れており、無呼吸・昏睡が6時
    間以上続いた症例について再検査の時間は30分でよいとしている。このよ
    うな考えは発症から初回検査までの無呼吸・昏睡の持続を重視する立場で
    ある。
     一方、初回検査までの無呼吸・昏睡の持続を考慮せず、初回検査から最
    終回検査の時間間隔を重視する立場がある。本判定基準では不可逆性の判
    定に要する時間間隔を重視し、判定基準のすべての項目が満たされた時点
    から時間を起算している。このほうが判定の誤りを絶対に避けうるからで
    ある。アメリカ大統領委員会の場合も、全脳機能の停止が適切な観察およ
    び治療期間にわたって持続していることを条件としている。

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