便秘はまさに「万病のもと」といっても過言ではありません.
近頃は美食の傾向が強くまた健康ブームも重なり,美味しく身体に良いものをというこ
と
であれこれ食べ物に気を使っている方が多いようです.
ところが「食べること」以上に「排せつ」は重要で,悪いものが体内に残っているとい
う点では便秘は下痢よりも問題があるといえます.便秘が原因による症状ははっきり現
れませんが肝臓,胆のう,心臓の病気などに影響を与えます.また美容にも悪く吹出物
やにきびの原因にもなります.
臭いものにはフタをする式にそのまま放置する,あるいは漫然と下剤を用いてその場を
過すのは良くありません.
★便の中身は?
健康人では1日1回,有形便が排せつされるのが普通です.しかし人によっては1日2
回,あるいは2--3日に1回の排便でも快い人もあります.健康時に比べて排便回数,
便量が減少しそのため不快感を伴う状態を便秘と定義します.
大便の主成分は水(65--75%),胃腸細胞のカス,腸内細菌の死骸等が大部分を占めます
.腸管の細胞は身体で最も消耗が激しいところで2日ほどですっかり新しい細胞に入替
わってしまいます.また大腸菌を中心とする腸内細菌の死骸(便1g中に約1兆個)が便
に含まれています.さて,肝腎の食べ物のカスは?---ほとんどが処理されわずかの量
しか便と
して排せつされません.それほど人体は食物を効率良く消化,吸収しエネルギーとして
,身体の構成要素として利用しているのです.従って,今日はたくさん食べたから,ま
た何も食べなかったからといって便の量が極端に変化することはなく,便は毎日あるは
ずなのです.
★便秘の種類−−−慢性便秘−−機能性便秘−−−弛緩性便秘
| けいれん性便秘
| 直腸性便秘(習慣性便秘)
− 器質性便秘
@弛緩性便秘
老人や病人,痩せた胃アトニー症気味の人に多い.
大腸の運動機能が弱くなることによって排便がスムーズにいかなくなります.体力を
つ ける運動と食物繊維をよくとることが大切.
Aけいれん性便秘
大腸が過敏になり痙攣をおこして便をためることによる状態です.便秘と下痢とが交互
にある人もあります.原因はストレスが多いようです.この場合の便はポロポロと小さ
なものしか出ず,腹痛を伴います.神経過敏の人が多いので心を落ち着けてストレスを
解消するようにしましょう.
B直腸性便秘
これは習慣性のものです.便が直腸に達して便意を催しても,常に我慢してしまうと直
腸の感受性が落ちていつのまにか便意が起らなくなります.忙しいサラリーマン,勤め
を持った主婦に多いようです.
★便秘を治すには?
便秘は大腸が正常に働かないため起るのですが,当然のことながら腸は人体の一部であ
り独立して動いているのではないから,単に大腸の動きだけに固執するのは誤りです.
身体の一臓器という認識を持って,他の器官も含め全身的に活力のある状態にすること
が便秘の解消法といえるでしょう.
a)排便を促す方法
1.食物繊維を取る−−−食物繊維は消化管中のカスをからみ取り,便のかさを増や
し大腸を内側から刺激する.ごぼう,ひじき,れんこん,わかめ
2.糖質を積極的に取る−−−便を柔かくする,蜂蜜,水飴,果物,果汁,ただし取
過ぎも肥満の原因となるので注意.
3.乳酸菌を取る−−−筋肉,神経の働を良くするビタミンB1を大腸内で繁殖させ
悪玉菌を減少させる.ヨーグルト,サワーミルク,ナチュラルチーズ
b)生活面ですること
1.毎朝起きる前にお腹をマッサージ.時計方向に.
2.起き抜けに冷水を飲む.大腸を刺激する.
3.筋肉をひきしめる.毎日適当な運動を.
4.寝る前にも適度な運動,マッサージを.
5.下剤はあまり飲み続けないようにする.自分の力で排便できなくなる.
特に強いものは避けましょう.
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
便秘治療剤(下剤)に関する記述の中で、正しいと考えられるものの( )の
中に○印を記入して下さい。
(1)塩類下剤は比較的少量の水とともに服用するのが望ましい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・( × )
(2)ラクツロ−スなどの糖類下剤は肝硬変などの肝不全傾向のある便秘症に使わ
れる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・( ○ )
(3)バルコ−ゼなどの膨張性下剤は作用が生理的排便機序に近いので危険性は少
ない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・( ○ )
(4)(加香)ヒマシ油は骨盤内の充血を起こすので、月経時、妊娠時には使わな
い。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・( ○ )
(5)センナなどのアントラキノン誘導体は連用しても耐性は生じ難い。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・( × )
(6)フェノバリンと酸化マグネシウムなどのアルカリ剤を混合すると、経時的に
桃赤色に変色し、効果はなくなる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・( × )
(7)ピコスルファ−トNa(ラキソベロン)は習慣性が少なく、妊婦に対しても
比較的安全に使用できると考えられている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・( ○ )
(8)下剤の乱用によって下剤性結腸症候群を起こすことがある。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・( ○ )
(9)アロエは妊娠中でも投与されることがある。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・( × )
(10)第5次改訂栄養所要量の食物繊維の目標摂取量は、成人で20〜25g/日で、
現在の摂取量は、この目標量より多く摂取していると報告されている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・( × )
便秘について
最近の食生活の欧米化に伴う食物繊維の摂取の減少、車社会による運動不足など
により便秘は増加している。特に女性と高齢者に多い。
1.便秘とは Constipation
便通異常には下痢、便秘及びそれらが交互に出現する交代性便通異常がある。便
秘の原因は一つではなく、複数の要因が重なって起こることが多くの場合に認めら
れる。
(1)便秘とは
---------------
1968年にHiltonは、便秘とは「排便回数が週 3回以下、排便困難がある、または
その両者を伴う場合」と提案しているが、一般に便秘とは種々の原因により排便機
序に障害が起こり、糞便の結腸内通過あるいは直腸からの排出が遅れ、 3日以上、
排便のない状態を言う。しかし、排便の回数は個人差もあるので、単に回数の少な
いだけでは便秘ではなく、便量が減少( 1回の排便量の減少 35g以下)し、便中の
水分量は少なく、排便時に努力と苦痛を要し、不快感、腹部膨満感、腹痛などがあ
って、日常生活に支障が出るなどの症候群を便秘と定義している。
厚生省大臣官房統計情報部(編)による平成 4年国民生活基礎調査(厚生統計協
会:1993)によれば、女性の方が男性より数倍も便秘が多いと報告されている。
(2)消化管と食物
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摂取された食物は、その内容、運動量、消化吸収能力、腸管機能、精神状態など
によって変化はあるが、一般に通過時間は次のようで、S状結腸までは食後12〜16
時間、排便は24〜72時間で生じる。
胃 :炭水化物・2〜3時間 (タンパク質・4〜6時間、脂肪・7〜8時間)
小腸:2〜3時間( 6mとして 2〜3時間) ・・・・・・・十二指腸、空腸、回腸
大腸:17時間(1.7mとして 10cm/時間) ・・・・・・・盲腸、結腸、大腸
結腸は上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸に分かれるが、上行・下行結腸
は後腹壁に固定され、可動性は少ないが、横行・S状結腸は腸間膜を有し、可動性
は大きい。大腸の主な機能は、水と電解質の吸収と糞便の貯留である。小腸から流
入した液状内容物は、主として右側結腸(上行、横行の前半)で水分が吸収されて
固形状の糞便となり、左側結腸(横行の後半以降)に達し、主としてS状結腸に貯
えられる。横行結腸中部以下には排便に関連して、 1日1〜2回大蠕動が起こるが、
それ以外は運動があまり見られない。自律神経の支配を受けており、交感神経は抑
制的に、副交感神経は促進的に作用する。蠕動は大腸では小腸より持続時間が長く、
また右側結腸では逆蠕動が見られる。
一般に糞便成分は75%が水分(約 100ml/日が排泄)で、固形成分は摂取食物に
よって変動するが、細菌が約30%で、セルロ−スや不消化物、剥離粘膜細胞、粘液、
消化酵素などで、脂肪の排泄量は約 2g/日である。絶食または完全成分栄養法の
場合でも、糞便は少量排泄され、その内容は剥離した粘膜細胞、腸内細菌、分泌液
などである。電解質も一定でないが、K+、HCO3+ が多く、Na+、cl+は大部分吸収さ
れて糞便中への排泄は少ない。
大腸の分泌液は HCO3+を多く含みアルカリ性で、リゾチ−ムが含有されている。
大腸分泌液は HCO3+により糞便中の発酵物質を中和し、粘液で粘膜を保護するとと
もに、糞便の移送を円滑にする。糞便の腸壁への機械的刺激は骨盤神経を介して粘
液分泌を促す。
(3)排便の仕組み
-------------------
食事摂取により胃が刺激されると、その情報が中枢神経に伝わる。すると神経系
の反射運動が起こり(胃・大腸反射あるいは胃・結腸反射)、大腸が蠕動運動(内
容物を押し出そうとする作用)を始める。その蠕動運動に、腸内容の増加により大
腸粘膜が伸展され局所の粘膜反射による蠕動も加わる。
それによって腸内容物が直腸まで送り込まれる。通常、S字状結腸と直腸との間
で結腸括約部が収縮して直腸内には糞便は存在しない。しかし、直腸内に糞便が送
り込まれると、直腸壁が伸展され、その刺激は中枢神経(壁在神経、仙骨神経)を
介して興奮が直腸から脊髄や大脳に伝わり、排便を促す反射が起こる。
この排便反射が起こると、腹(壁)筋や横隔膜が緊張して腹部に圧力をかけるこ
とによって排便される。つまり、腹筋の反射的収縮(いきみ)、横隔膜の吸気性停
止により腹圧を高め、便が肛門の内・外括約筋に向かって押し下げられる。そして
最後に、内肛門括約筋の不随意的弛緩と大脳からの刺激による外肛門括約筋の随意
的弛緩が起こり、排便が完了する。
これらの一連の反射を排便反応と呼ぶ。
ただ、便意を催しても排便に不適当な条件下では、排便を一時的抑えることがで
きるが、便意を抑制し過ぎると、直腸壁の圧受容体の感受性が低下し、通常の刺激
では便意が起こらなくなる。逆に意識的に便意を催して排便することも可能である。
これらの機能が次のような理由で円滑に作用されない場合に、摂取する食物など
の影響も加わって便秘になる。
1.腸の蠕動運動が弱い 2.腹筋が弱い 3.腸の過剰作用による便の通過障害
4.便を我慢する習慣による排便反射の機能の低下
2.便秘の病因別分類
便秘は経過からは急性と慢性に分け、原因疾患および病態からは器質性と機能性
に分ける。慢性機能性便秘には腸管の運動が低下している弛緩性便秘、亢進してい
る痙攣性便秘及び粘膜知覚の低下による直腸性便秘がある。薬剤による便秘もある
ので、常用している薬剤の有無は必ず聞くことが必要である。
便秘の原因としては腸疾患によることが多いが、基質的な異常が認められない機
能的異常に基づくものも多い。
(1)基質性便秘(症候性便秘)
-------------------------------
器質的便秘は原因疾患の治療が第一である。急性の器質的便秘は腸閉塞などによ
る。時に迅速な対応を必要とする。
1.先天性:Hirschsprung病
2.後天性:
下部の大腸ガン、炎症性腸疾患、腹膜炎、腸管癒着症、腸管外性圧迫・浸潤
糖尿病、甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症、中枢神経系疾患、膠原病
何らかの基質的異常を伴うもので、症候性便秘とも言う。腸管自身の病変や、隣
接する腹腔内臓器の炎症、腫瘍などにより腸管の狭窄や運動麻痺をきたし、腸内容
の通過障害を出現するものや、内分泌疾患、神経疾患、薬物中毒などによる腸管運
動の麻痺によって便秘が起こる。
(2)機能性便秘
-----------------
腸管に基質的な異常のない機能性便秘は、急性のものでは正常の排便リズムが何
等かの原因で乱れ、便秘となったもので一過性である。
慢性の常習性便秘は、日常しばしば見られ、自律神経が関与している。
1.一過性単純性便秘:食事・生活の変化
2.常習性便秘(習慣性便秘)
a.弛緩性便秘:
→中高年女性、高齢者及び全身衰弱、腹圧低下、内分泌疾患のある場合
常習性便秘のうち弛緩性便秘が70〜80%と最も多い。アウエルバッハ神経叢の
興奮性が低下しているため、大腸全体が弛緩性(大腸の運動と緊張が低下)し、
腸内容物が停滞して輸送が遅れ、水分が吸収されて便が硬くなり、排出までの
時間が遅れるために起こる。ただ、糞便は硬くはなるが、それほど硬くならな
いのが特徴である。
この原因としては、食物繊維などの摂取不足による低残渣食による腸蠕動刺激
の低下、加齢による腸管運動及び分泌機能の低下傾向、腸管壁の強さや緊張の
減弱傾向(呼吸関連筋群や腹筋の低下により十分な腹圧がかからない状態)が
考えられるので、食物繊維の多い食事や冷水または牛乳を早朝時に摂取させる。
下剤としては、はじめ増量性下剤の塩類下剤(酸化マグネシウム)、膨張性下
剤(バルコ−ゼ)を用い、効果が不十分の場合、大腸刺激性下剤(プルゼニド、
アロ−ゼン、ラキソベロンなど)が用いられる。
また、ベサコリン(自律神経作用剤)、パントシン(脂質代謝改善剤)も有効
とされている。パントシンはアセチルコリンの生成を促進して腸運動を亢進す
る。パントテン酸の欠乏または代謝障害が関与すると推定される弛緩性便秘に
使われる。
b.直腸性便秘: →排便の意識的抑制、直腸肛門病変、無力性体質、浣腸の乱用
直腸内に内容物が入っても骨盤神経を介する排便反射が減弱または消失してい
るために排便困難が生じるものである。
排便は通常、食事の後に起こる胃・結腸反射により促進されるが、これを無理
に抑える習慣が続くと反射機能は漸次減弱する。多忙な人に多いが、痔疾、肛
門部損傷(裂傷や潰瘍)のための排便時の疼痛や肛門括約筋の痙攣、浣腸の乱
用も排便反射機能の低下の原因となる。その他、神経疾患、外傷などで起こる。
便意を抑制するなど、排便の習慣の乱れによって生じることが多いので、便意
があれば、すぐに排便するように注意する。
直腸・肛門病変による疼痛のために排便困難を起こしている場合は、病変部の
治療を初めに行う。下剤は腸粘膜への直接刺激により排便反射を刺激する新レ
シカルボン坐剤を用い、直腸内で炭酸ガスを発生させて便意を促す。
ビタミンB1 製剤のアリナミンF、ノイビタには便秘の適応があり、併用する
こともある。
c.痙攣性便秘: →過敏性腸症候群、下剤の乱用
痙攣性便秘は主として下部大腸の運動・緊張の亢進のために痙攣性収縮をきた
し、腸管内容物の通過障害が起こることにより生じる。水分が吸収されて硬く
なることにより、便秘が起こるもので、排便は兎糞状となる。
過敏性腸症候群Irritable Bowel Syndromeに見られる便秘は、多くはこの型に
属し、下痢と便秘が交互に繰り返される交代性便通異常となることが多い。排
便前の腹痛と排便による腹痛の軽減が特徴である。
過敏性腸症候群では便秘のほかに、腹痛、腹部不快感、ガス症状などの腹部症
状を訴える。さらに不安感、抑うつ感などの精神症状、自律神経失調様症状、
頭痛、腹痛などの不定愁訴を伴う症例が多い。
痙攣性便秘に対しては下剤の効果は少ない。セレキノン(腸運動調整剤)かト
ランコロン(抗コリン剤)に酸化マグネシウムを用いる。心因性の強い場合に
は、必要に応じて抗不安剤、抗うつ剤、自律神経調整剤などを併用する。
大腸刺激性下剤では症状の悪化を招くことがある。抗コリン剤は緑内障や前立
腺肥大症では禁忌である(三環系抗うつ剤には抗コリン作用があるので注意す
る)。
(3)薬剤性便秘
-----------------
薬剤の使用により副作用として便秘が起こることがある。特に高齢者では種々の
薬剤を使用しているので特に注意する。急性便秘では最近、使用した薬剤について
調べる。ただ、薬剤は直接でなくても間接的に便秘の原因となることがある。これ
は、利尿剤により水分が排出されて、便が硬くなり便秘を起こすことがあるなどの
例が挙げられる。また、 1剤では問題がないが、複数併用すると相乗作用で便秘を
起こす場合もある。
便秘の原因となる薬剤でよく使われるのは、抗コリン剤、ガン疼痛に対する麻薬、
制酸剤などがあるが、これらの薬剤は便秘を起こしても中止できないので、下剤を
併用することになる。最近ではCa拮抗剤による便秘の報告がよく見られる。
〔表 1〕便秘の原因となる主な薬剤
---------------------------------------------------------------------------
1.麻薬
a.モルヒネ系:塩酸モルヒネ(塩酸モルヒネ、MSコンチン)
b.コデイン系:リン酸コデイン
2.抗コリン作用製剤
a.パ−キンソン病治療剤:
トリヘキシフェニジル(ア−テン他)、レボドパ(ドパストン他)
b.抗うつ剤(三環系):
アミトリプチリン(トリプタノ−ル他)、クロミプラミン(アナフラニ−ル)
イミプラミン(トフラニ−ル)
c.抗うつ剤(四環系):マプロチリン(ルジオミ−ル他)
d.失禁治療剤:
プロパンテリン(プロバンサイン)、オキシブチニン(ポラキス)
3.制酸剤 :アルミニウム製剤
-----------------------------------------------------------------------------
4.その他:
骨量増加剤(カルシウム製剤)、 利尿剤、鉄剤、カルシウム拮抗剤、
ベンゾジアゼピン系剤、フェノチアジン系剤(クロルプロマジンなど)、
H2-遮断剤、ピル、トコフェロ−ル(ユベラ他) など
---------------------------------------------------------------------------
3.便秘治療剤について
便秘の治療に関しては、便秘の訴えがあっても、本人に不快や苦痛がなく、健康
な生活が営めるならば、特に治療の必要はない。また、直ちに緩下剤を用いるべき
でない。〔表 2〕は主な下剤の一覧表である。
便秘の治療薬には下剤、浣腸剤、消化管運動機能調整剤、漢方薬、ビタミン剤、
整腸剤などがある。必要に応じて向精神剤も併用する。基本的には痙攣性便秘に刺
激性下剤は望ましくない。下剤を使用する場合は作用の弱いものから少量ずつ用い
たり、種類を変えて交互に用いる。
〔表 2〕便秘治療剤の分類 (数字:薬効分類番号、記載のないものは、235)
---------------------------------------------------------------------------
分類 一般名 商品名
---------------------------------------------------------------------------
1)機械的下剤
---------------------------------------------------------------------------
1.塩類下剤 硫酸マグネシウム
(無機塩製剤) 人工カルルス塩
酸化マグネシウム
クエン酸マグネシウム マグコロ−ル(P)他 721
2.糖類下剤 ラクツロ-ス モニラック他 399
D-ソルビト-ル D-ソルビト−ル液 799
3.膨張性下剤 カルメロ-スNa(CMC) C.M.C「マルイシ」
(カルボキシメチルセルロ-ス) バルコ−ゼ
4.浸潤性下剤 DDS+カサンスラノ-ル 強力バルコゾル
DDS+ダンスロン (強力)ソルベン*
--------------------------------------------------------------------------
2)刺激性下剤
--------------------------------------------------------------------------
1.小腸刺激剤 (加香)ヒマシ油
オリ−ブ油
2.大腸刺激剤
アントラキノン系誘導体 カスカラサグラダ流エキス カスカラサグラダ流エキス
(植物性製剤) センナエキス アジャストAコ-ワ他
センノシド セノコット、プルゼニド他
フェノ-ルフタレイン誘導体 フェノバリン フェノバリン「各社」、ラキサト−ル
ジフェノ-ル誘導体 ピコスルファ-トNa ラキソベロン他
3.直腸刺激剤 ビサコジル(坐) テレミンソフト坐薬 1、3号他
(坐剤) 炭酸水素Na配合 新レシカルボン坐剤他
---------------------------------------------------------------------------
3)自律神経作用剤
---------------------------------------------------------------------------
1.副交感神経刺激剤 臭化ネオスチグミン ワゴスチグミン1233
---------------------------------------------------------------------------
4)浣腸剤(直腸性)
---------------------------------------------------------------------------
グリセリン グリセリン坐薬、−浣腸「各社」
薬用石鹸 薬用石鹸「各社」261
--------------------------------------------------------------------------
5)その他
---------------------------------------------------------------------------
1.電解質配合剤 塩化ナトリウム等配合剤 ニフレック(経口腸管洗浄剤)799
2.ビタミン剤 ビタミンB1 アリナミンF、ノイビタ3122
パントテン酸Ca パントシン他 313
--------------------------------------------------------------------------
*(強力)ソルベン:ジオクチルジソジウムスルホサクシネ-ト(DDS)+ダンスロン
ダンスロンの動物試験の結果、マウスでは肝に、ラットで腸に腫瘍の発生が認
められた。この試験のみではヒトにおける発ガン性は不明であるが、メ−カ−
では自主的に(強力)ソルベンの製造・出荷を自粛している。なお、OTCに
ついては、他に代替品があることから、処方変更が行われた。
→副作用情報No.83(昭62. 2)
(1)機械的下剤
-----------------
薬剤そのものが、腸管内で水分を補足し、腸内容の体積を増量させて、その刺激
で蠕動を亢進させて排便を促す。主な機械的下剤として次が使われる。
1.塩類下剤(無機塩製剤): 効果発現・等張または低張液( 1〜2 時間)
- - - - - - - - - - - - -
硫酸マグネシウム、人工カルルス塩、酸化マグネシウム、クエン酸マグネシウム
〔適応〕基質的疾患に伴う便秘、機能的便秘、食中毒、薬物中毒などの際の腸内有
害物質排除
〔特徴〕1.習慣性がない 2.腸管粘膜への炎症変化を起こし難い 3.消化管からの
吸収が少ない 4.大量投与は子宮収縮誘発の危険性はあるが、少量では
妊婦への使用は安全 5.胎盤通過による新生児高Mg血症
腸管から吸収され難く、腸管の中で腸内容液が体液と等張になるまで、体水分を
吸収する。さらに腸管内水分の吸収を妨げる。従って、腸内容の体積は増加し、
流動性となり、腸管粘膜を刺激して蠕動を亢進させ、水様便を排泄する。大量の
水とともに服用すると効果的である。 →出題(1)
非吸収性の順位は Mg2+>Ca2+>Na+>K+;PO43->SO42->NO3->Br->Cl-である。
習慣性が少ないので、長期間の使用が可能である。腸管粘膜への炎症変化を起こ
し難く、消化管からの吸収も少ない。
塩類下剤は心・腎機能不全患者では用いない方がよい。
大量投与は子宮収縮誘発の危険性はあるが、少量ならば妊婦への使用もできる。
しかし、胎盤通過による新生児高Mg血症には注意する。
副作用としては、ときに悪心、食欲不振が見られる。Mg塩は腎機能障害のある場
合には、Mg中毒症状(弛緩性麻痺、昏睡、心不全など)を現し易い。
痙攣性便秘には禁忌。Na製剤はうっ血性心不全などで浮腫のある患者には禁忌。
A糖類下剤:
- - - - - -
ラクツロ-ス(モニラック他)399、D-ソルビト-ル(D-ソルビト-ル液)799
〔適応〕肝硬変などの肝不全傾向のある便秘症 →出題(2)
添付文書の効能・効果は、高アンモニア血症に伴う精神神経障害、脳波異
常、手指振戦
ラクツロ−スはガラクト−ス 1分子と、フルクト−ス 1分子からなる合成二糖類
で、経口投与すると無変化のまま大腸に達し、浸透圧作用によって水分を貯留し、
便を軟らかくする。同時に腸内細菌によって分解され、生成された有機酸(乳酸、
酢酸など)の刺激によって、腸管の蠕動を亢進させ、排便促進効果を現す。
B膨張性下剤: 効果発現→10〜24時間
- - - - - - -
カルメロ-スNa:CMC(C.M.C「マルイシ」)、バルコ-ゼ・・・カルボキシメチルセルロ-ス
〔適応〕常習性便秘、特に弛緩性便秘、直腸性便秘、痔疾患者
〔特徴〕1.習慣性がなく長期使用に理想的 2.腸管粘膜への炎症変化を起こし難い
3.消化管からの吸収が少ない 4.大量投与は子宮収縮誘発の危険性
作用が生理的排便機序に近いので危険性は少ない。大量の水とともに服用すると
効果的である。 →出題(3)
腸管内では吸収されないで、逆に水分を吸収して膨張し、機械的に腸壁を刺激し
て蠕動を亢進させて排便を促す。12〜24時間以内に効果が発現し、最大効果は 2
〜3 日投与後となる。便秘の矯正にはある程度の日数と訓練を必要とするため、
便塊が排泄されても短時間で中止せず、規則正しい排便ができるようになるまで、
投与を続けることが望ましい。
食物繊維と同等の作用があり、腸管粘膜への炎症変化を起こし難い、消化管から
の吸収が少ない、習慣性が無いので長期使用可能などの利点はあるが、大量投与
は子宮収縮誘発の危険性を生じる。
吸収されないので殆ど副作用はないが、腸狭窄、重症の硬結便の患者には禁忌。
寒天も膨張性下剤として使われた。
4.浸潤性下剤: 効果発現・ 8〜12時間
- - - - - -
ジオクチルジソジウムスルホサクシネ-ト(DDS)+カサンスラノ-ル(強力バルコゾル)
〔適応〕常習性便秘、特に弛緩性便秘、直腸性便秘、痔疾患者
〔特徴〕1.習慣性・副作用が少ないが作用が弱い
2.大量投与は子宮収縮誘発の危険性
習慣性の心配のない緩下剤であるが、浸潤性下剤のみの投与では作用が十分でな
いことが多い。このため大腸刺激性下剤とよく併用される。例:強力バルコゾル
生理的排便機序に近いので危険性は少ない。大量の水とともに服用すると効果的
である。強力バルコゾルはジオクチルジソジウムスルホサクシネ−ト(DDS)
の界面活性作用により、表面張力を低下させ、硬化糞便内に水分が浸透し易くし、
膨潤化して軟便化する。さらに配合されたカサンスラノ−ルの糞便水和作用も加
わり、排便を促して緩下作用を示す。カサンスラノ−ルの腸蠕動促進作用は、自
律神経節遮断剤あるいは抗コリン剤処置により影響されないために、手術時また
は抗コリン剤、鎮痙剤、降圧剤などの投与で引き起こされた腸蠕動運動の低下に
対しても腸蠕動運動促進作用を発揮する。
吸収されないので殆ど副作用はないが、腸狭窄、重症の硬結便の患者には禁忌。
大量投与は子宮収縮を誘発する危険性がある。カサンスラノ−ルは母乳中に移行
して乳児に下痢を起こさせるので、授乳中の婦人には投与しないことが望ましい。
尿が黄褐色〜赤色になることがある。
(2)刺激性下剤
-----------------
腸管粘膜の局所刺激あるいは壁在神経叢に直接作用して蠕動を亢進させ、腸内容
物を直腸に早く移動させ、結腸内の水分吸収を抑制する。作用は比較的強いが、習
慣性があり、腸管粘膜に炎症変化をきたすことがある。
長期に用いると耐性が現れ、増量しないと効かなくなるので、短期間の使用が原
則である。
1.小腸刺激剤(峻下剤):(加香)ヒマシ油、オリ-ブ油 効果発現・2〜4時間
- - - - - - - - - - - -
〔適応〕食中毒、急性腸炎などの腸内有毒物質の早期排除及び一過性単純性便秘
主としてヒマシ油が用いられるが、ヒマシ油は小腸で胆汁によって乳化され、リ
パ−ゼによって加水分解されて、リシノ−ル酸とグリセリンになる。リシノ−ル
酸がアルカリ下でリシノ−ル酸ナトリウムとなって、小腸粘膜を刺激して蠕動を
亢進させて排便を促す。また、加水分解されなかったヒマシ油とグリセリンとは
粘滑作用を現す。
ヒマシ油は通常10〜20ml/回を屯用するが、服用し難いので、加香して飲み易く
した加香ヒマシ油が用いられる。
連用すると栄養障害を起こす。骨盤内の充血を起こすので、月経時、妊娠時に使
用すると大量出血をする危険性がある。また、痙攣性便秘、急性虫垂炎、腹膜炎
には禁忌である。 →出題(4)
また、ヘノポジ油、綿馬エキス、四塩化エチレンなどの脂溶性の駆虫剤と併用す
ると、これらの製剤の吸収を促進し、中毒を起こすことがある。
過去にはオリ−ブ油も小腸刺激剤として使われた。
2.大腸刺激剤:
- - - - - - -
以前はフェノ−ルフタレン誘導体(ラキサト−ルなど)が多く用いられたが、用
量調節が難しいことから、最近では薬用量の範囲が広く、用量調節が比較的容易
なアントラキノン誘導体が繁用される。連用によって被刺激性が低下し、増量が
必要になるが、塩類下剤、膨張性下剤、浸潤性下剤との併用で長期投与が可能で
ある。大腸刺激性下剤のビソキサンチン(ラキソナリン)は発売中止。
〔適応〕常習性便秘、特に弛緩性便秘、直腸性便秘
a.アントラキノン誘導体: 効果発現→ 8〜12時間
カスカラサグラダ流エキス、センナエキス、センノシド
〔特徴〕1.作用は強いが習慣性あり 2.腸管粘膜に炎症変化を起こす
3.骨盤内充血をきたすので妊婦、月経時には一般に原則禁忌、要注意
センナ、ダイオウ、カスカラサグラダ、アロエなどの生薬に含有される配糖体
のエモジン、クリソファノ−ル、レイン、センノサイドA及びBなどが有効成
分である。胆汁や腸液によって加水分解され、大部分は小腸より一旦、吸収さ
れた後、血行あるいは直接的に大腸に達して、大腸粘膜及びアウエルバッハ神
経叢を刺激して、蠕動を高め排便を促す。
CMC、DDSなどの単独では、比較的効果の弱い緩下剤が、アントラキノン
誘導体のセンナ、ダイオウ、カスカラサグラダなどと配合される。
アントラキノン誘導体は、連用すると耐性が増大し、腸管の細胞(神経細胞)
を障害し、有効性を減ずる可能性がある。薬剤に頼り勝ちになるので長期連用
は避ける。また、連用すると大腸粘膜にメラニン色素が沈着(大腸メラノ−シ
ス:大腸黒皮症)すると言う報告があるが可逆性である。 →出題(5)
急性虫垂炎、腸出血などの急性疾患、及び月経時、妊娠時、痔疾のある場合は
原則禁忌、要注意など添付文書の記載は違うが十分に注意する。
母乳への移行があるので授乳婦への投与は避ける。尿が褐色〜赤色になること
がある。
カスカラサグラダ流エキスは、カリフォルニアインデアンが樹皮から採取して
利用していた。骨盤内充血が無く、痔疾患者、妊婦、月経時にも使用できるが、
薬価は収載されているものの製品の入手は難しい。
しかし、アロエは妊娠中の投与により胎児が脱糞して、子宮内を汚染するので
禁忌である。
b.フェノ−ルフタレン誘導体: 効果発現→ 6〜12時間
フェノバリン(フェノバリン「各社」、ラキサト-ル)
胃では変化を受けずに通過して、腸管内で作用する小腸内で胆汁及びアルカリ
性の腸液によって加水分解され、フェノ−ルフタレインのキノイド型Na塩とな
り、大腸粘膜を刺激して、腸蠕動を促し、腸の液成分吸収を妨げ、腸内壁を刺
激し緩下作用を発揮する。尿・便が赤色になることがある。
フェノ−ルフタレン誘導体は、一部吸収され腸肝循環による作用の延長が見ら
れる。過敏症(発疹、掻痒など)が現れることがある。また、まれに Stevens
-Johnson症候群、 Lyell症候群が発現することが報告されているので注意する。
フェノ−ルフタレインの連用により、キノイド型Na塩に対する腸の被刺激性が
低下し、増量が必要となることがある。
一般にアルカリ剤とは配合禁忌である。酸化マグネシウムとの混合により次第
に桃赤色になるが、効果には変わらない。 →出題(6)
c.ジフェノ−ル誘導体: 効果発現→ 7〜12時間
ピコスルファ-トNa(ラキソベロン他)
胃、小腸ではほとんど分解されずに大腸に達し、大腸の腸内細菌叢由来の酵素
である、アリルサルファタ−ゼによって加水分解され、ジフェノ−ル体と硫酸
Naになる。そのうちのジフェノ−ル体が大腸粘膜を刺激して蠕動を亢進させて、
大腸運動亢進と水分吸収阻害作用を示し排便を促進する。
ピコスルファ−トNa(ラキソベロン)は錠剤、液剤があり使用性に富み、習慣
性が少なく妊婦や胎児への安全性は、ほぼ確立していると考えられている。
→出題(7)
3.直腸刺激剤:(坐剤) 効果発現→ 5〜8時間
- - - - - -
ビサコジル坐剤(テレミンソフト坐薬)、 炭酸水素Na配合(新レシカルボン坐剤他)
ビサコジル(コ−ラック:OTC)は、粘膜を直接刺激し、排便反射を起こさせ
るが、制酸・中和剤と併用した場合、溶出が早まり消化管の刺激が増強され、腹
痛、悪心・嘔吐、腹部膨満感が出現する。
急性虫垂炎、腸出血などの急性疾患、及び月経時、妊娠時、痔疾のある場合は禁
忌であり、母乳への移行があるので授乳婦への投与は避ける。
(3)副交感神経刺激剤
-----------------------
主な副交感神経刺激剤として、臭化ネオスチグミン(ワゴスチグミン) が使われる。
腹痛と兎糞状の便を少量しか排便しない痙攣性便秘の患者には、蠕動を弱めるため
に、副交感神経遮断剤が併用される。迷走神経刺激剤ワゴスチグミンは消化管機能
低下による弛緩性便秘(術後の腸管麻痺、自律神経遮断による便秘)に適用される。
副交感神経刺激剤であるベタネコ−ル(ベサコリン)が用いられることもあるが、効
能・効果は術後などの消化管機能低下などである。前立腺肥大、心疾患、脳卒中後
の患者には副作用のおそれがあり、一般に高齢者には使い難い。
(4)浣腸剤(直腸性)
-------------
グリセリン(グリセリン坐剤、−浣腸「各社」)、 薬用石鹸(薬用石鹸「各社」)
グリセリン浣腸液は、腸管壁の水分を吸収することにより、局所を刺激し、便を
軟化・潤滑化することによって排便を促進する。妊婦には禁忌。
弛緩性便秘、直腸性便秘に用いられる。直腸粘膜が刺激され、また、習慣となる
ので、できるだけ連用は避ける。連用による耐性のため効果が減弱したり、腹圧を
かけないで楽に排泄できるため、腹圧減弱による排便困難が増加する。
高齢者では直腸内に便が溜り、それが石のようになって排便が出来ないことがあ
る(糞便嵌頓fecal compaction)。このような場合には、まず微温湯で浣腸し、暫
く待って便が軟らかくなってから、浣腸剤を用いる。
副作用については、直腸粘膜の糜爛や浣腸実施時に直腸粘膜を損傷した場合、あ
るいは痔疾のために血管内にグリセリン浣腸液が流入し、血色素尿が認められた報
告もある。
また、高齢者の場合、頻回の下痢による電解質異常なども起こることがあり、強
制排便により血圧低下をきたすことがあるので注意する。
(5)その他
-------------
1.電解質配合剤:塩化ナトリウム等配合剤(ニフレック)経口腸管洗浄剤
2.ビタミン剤 :ビタミンB1(アリナミンF、ノイビタ)
パントテン酸Ca(パントシン他) 313 →弛緩性便秘
緩下剤としての効能・効果はないが、アボビス、プリンペラン、リサモ−ルなど
は腸運動を亢進させるので、緩下剤としての効果も期待できる場合もある。また、
トランコロン(抗コリン剤)も使われることがある。
4.便秘症状に対する下剤の禁忌
下剤の禁忌に留意する。次に添付文書による主な下剤の禁忌例を記載する。
〔表 3〕各種下剤の禁忌一覧
-------------------------------------------------------------------------
禁 忌 摘 要
-----------------------------------
1 2 3 4 5 6 7 8 9
--------------------------------------------------------------------------
人工カルルス塩 ○ ○
バルコ−ゼ ○ ○
強力バルコゾル ○ ○ ○
ヒマシ油 ○ ○ ○ ○ ○
プルゼニド ○ ○ ○ ○ ○
ラキサト−ル ○ ○ ○ ○
ラキソベロン ○
テレミンソフト坐薬 3号 ○ ○ ○ ○
-------------------------------------------------------------------------
〔禁忌と理由〕
1.急性腹症の疑われる患者→蠕動運動の亢進のため症状の悪化
2.重症の硬結便のある患者→ 〃
3.痙攣性便秘のある患者 → 〃
4.本剤に過敏症のある患者
5.電解質失調(特にK血症)のある患者→下痢が起こり電解質の喪失
6.急性腹部疾患(虫垂炎、腸出血、潰瘍性結腸炎など)の患者
→蠕動運動の亢進のため症状の悪化
7.肛門裂創、潰瘍性痔核のある患者
→坐剤挿入に伴う物理的、機械的な刺激を避ける
8.ヘノポジ油、メンマなどの脂溶性駆虫剤の投与中の患者→中毒を起こす
9.リン、ナフタリンなどの脂溶性物質による中毒時 →症状の悪化
5.便秘の生活指導
マラソンなどの激しい運動により、腹痛、下痢になるほど腸も激しく蠕動する。
反対に寝ていると腸は殆ど動かない。目がさめて起き上がり、活動すると腸も動き
だす。朝に便意を催すことが多いのもこのためである。
便秘の治療には生活様式の改善、食事療法が基本であって、自発的な排便を会得
させるバイオフィ−ドバック療法も有効である。
1.規則正しい排便習慣をつける。
必ず朝食を摂るようにし、その後、排便する努力を続ける。朝食は胃・結腸反射
を誘導し、大腸の蠕動運動を促進させる。
たとえ便意を催さなくても、朝食後は一定の時間にトイレに行くようにする。
2.排便に関与する腹筋などの筋力低下を防ぐために、腹筋運動など適度の運動をす
る。適度の運動により消化管の通過時間は短縮する。腹部のマッサ−ジはマッサ
−ジの消化管の通過時間や排便効果を検討した結果からは無効とされている。
3.便意を催させるような食事の摂取に心がける。この催便性食事としては次のもの
が知られている。
・早朝の冷水、冷牛乳、ヨ−グルト、冷果汁などの冷飲料は寒冷刺激を与える。
・繊維の多い植物性食品など機械的刺激を与える。食物繊維は腸管内の水分の調
整、糞便量の増加、消化管の通過時間の正常化などの作用がある。食物繊維を
多く含む食事を摂るようにする。小麦ふすまを 1日大匙 1杯程度服用させるの
もよい。食物繊維は消化酵素で消化できない炭水化物で、必ずしも繊維状では
ない。
・香辛料、炭酸飲料(ビ−ル、サイダ−などの発泡飲料)、脂肪の多い食品。
嗜好品と便通については患者が経験的に分かっていることが多い。コ−ヒ−は
大腸運動を亢進する。アルコ−ルは下痢傾向となる。タバコは人により一定し
ない。
経口的に摂取するとアミノ酸は大腸運動を抑制し、脂肪は亢進する。なお、経
静脈的投与でもアミノ酸は抑制するが、脂肪は影響しない。
・腸内細菌の繁殖を助け、炭酸ガス、水素ガス、アンモニアなどを産生する酢酸、
酪酸、吉草酸を含む食品
ただし、痙攣性便秘の食事療法は、その他の便秘の食事療法とは別で、刺激の少
ないもの、繊維残渣の少ないものを摂取する。
6.下剤の乱用
下剤を使い過ぎると下剤中毒(laxative abuse) に陥る。また、下剤乱用による
下剤性結腸症候群 Catharrtic colon syndromeの報告も多い。
常習便秘の患者は、下剤を長期にわたって連用する事になる。連用するにつれて
耐薬性がでて次第に効果が減弱するので、用量を増加する。下剤が過量になると、
腸管が痙攣を起こして、排便が困難となる。そこで更に増量するので下痢を起こす。
しかし、患者は下剤を使用すれば下痢を起こすのは当然と考えて、そのまま連用す
る。下痢が続くと腸に内容物は全く無いのに、常に便意を感じるようになり、下痢
が続く。このような症状を下剤性結腸症候群と言う。→出題(8)
この症状には主にK+ が関与している。下痢によって直接的にK+ が便とともに
喪失する。また水分とNa+の喪失はアルドステロンの分泌を促進し、これがK+ 欠
乏を助長する。K+ 欠乏は筋力の低下、さらに腸緊張及び運動の低下を起こし、便
秘を増強するなど悪循環を示す。
下剤性結腸症候群は精神的因子が関与していることが多いので、患者によく説明
して、下剤から離脱するように指導する。
7.女性の便秘
学童期までは男女比がない便秘も、思春期になると急に女性に便秘が増加する。
女性の便秘の大半は機能性便秘であり、次の理由によると考えられている。
1.黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌。
黄体期に分泌されるプロゲステロンは、腸管の運動を抑制し、その刺激感受性を
低下させるので便秘傾向となる。
2.腹筋作用が弱い。
3.若い女性では、会社、学校、旅行中のトイレなどで排便できず我慢をすることが
多い。 →いわゆる旅行者便秘
妊婦ではおよそ40%が便秘を訴え、その半数若しくは1/4が下剤を服用している
と推測されている(妊婦と便秘、ペリネイタルケア-7)。 妊娠の初期では、悪阻による食
事摂取量の減少、運動不足から便秘が起こる。さらに妊娠時には、卵巣の妊娠黄体
の発育とともにプロゲステロンの分泌亢進が妊娠 4カ月頃まで持続し、中枢性、末
梢性の腸管蠕動運動が抑制されるので便秘が起こりやすい。それ以降はプロゲステ
ロン作用が低下するので、便秘傾向は低減される。
しかし、 6カ月頃より胎児の発育に伴う子宮肥大による腸管の圧迫、横隔膜の挙
上、腹直筋の伸展なども腸管の運動を抑制し、再び便秘しやすくなる。また血管の
圧迫で下半身の血液うっ滞が起こり、痔疾を誘発・悪化させたりし、そのため排便
を抑えることが、さらに便秘傾向を強くする。
更年期では自律神経の不安定状態から大腸に痙攣性収縮が起こり、痙攣性便秘に
なることもあるが、子宮脱、直腸脱などのような基質性疾患による便秘もある。
女性の便秘では、生活習慣の是正や食事に注意し、下剤は膨張性下剤を用いる。
刺激性下剤の長期常用は好ましくない。
妊産婦への刺激性下剤の投与は、慎重投与とされているが、一般的な使用量では
まず危険はないとされている。ただし、切迫、早流産、前置胎盤の疑いの際には、
浣腸は禁忌である。
◇妊婦または妊娠している可能性に対する注意
人工カルルス塩、バルコ−ゼ、強力バルコゾル、フェノバリン、ビサコジルなど
は、子宮収縮を誘発して流早産の危険性があるので、大量投与は避ける。
アントラキノン系誘導体のカスカラサグラダ流エキス、アジャストAコ-ワ にもそ
の記載があるが、センノシド(プルゼニドなど)は原則禁忌となっている。
アロエは胎児が脱糞するので妊婦には禁忌である。 →出題(9)
8.高齢者の便秘
高齢者便秘の特徴は、弛緩性便秘と便秘をきたしやすい薬剤の常用による慢性便
秘である。高齢者では約1/3に便秘が見られ、加齢とともにその率は増加する。
加齢とともに下部消化管の結合組織中のムコ多糖類に量的及び質的変化が出現す
る。大腸の筋層では萎縮が30歳代より現れ、筋層内の繊維化も筋萎縮とともに生じ
る。さらに50歳を過ぎると、大腸平滑筋細胞容積の減少。65歳からは平滑筋細胞数
も減少する。
高齢者では種々の薬剤を服用しており、その薬剤の作用で便秘になることが多い。
急性便秘の場合には最近服用を開始した薬剤を調べる。薬剤性の便秘はその薬剤の
作用による直接的な影響と、間接的な影響によって便秘になる場合がある。例えば、
利尿剤によって水分が多量に排泄されるために、便中の水分量が減少して、便が硬
くなり、そのために便秘症状を示す。
高齢者の通常の便秘は弛緩性便秘であり、その自己管理としては食事に注意する。
腸壁を刺激して腸管運動を促す酪酸や乳酸菌などの有機酸の産生を高めるオリゴ糖
や、便通調整に役立つ食物繊維を多く摂取する。また、加齢とともに乳糖不耐が生
じるので、逆に牛乳を飲用する方法も考えられる。
年齢とともに排便機能に障害が出ることが多く、結腸の便の通過時間は高齢にな
るほど延長するとされているが、個人差が大きく、加齢による変化は無いと言う報
告もある。
直腸の内径は加齢に伴って太くなるが、直腸の最大耐容量は高齢で低下する。直
腸の感覚の閾値は年齢によって低下しない。便秘しても正常な感覚がある。
肛門管内の最大“いきみ”圧は、外括約筋と骨盤底筋群の随意的最大収縮の合計
で、高齢者では最大“いきみ”圧は低下するが、特に女性ではこの低下が大きい。
糞便嵌頓fecal compactionは、便が硬くなって排泄出来ない状態で、時にはイレ
ウスになることもあるので注意する。また、粘液や下痢便が糞塊の周りを通って出
るので、便秘でないと誤解されることがある。これは括約筋が悪いのではなく、直
腸粘膜感覚の低下のために、直腸が高度に拡張しないと収縮運動が起こらなくなり、
その結果、便が貯留し、硬い大きな糞塊を形成するものである。
糞便嵌頓fecal compactionの予防は、繊維分の多い食事を摂り、ラクツロ−スな
どの下剤を投与し、毎日排便する習慣をつけることである。
健康であったが、最近特別の理由もなく便秘傾向になったという場合、大腸ガン
が原因のこともあるので特に注意する。
9.食物繊維
第五次改訂栄養所要量における食物繊維の目標摂取量は成人で、20〜25g/日で
ある。現在の摂取量は16〜17gと報告されている。 →出題(10)
近年、食物繊維摂取量の減少とともに、大腸ガンや大腸憩室疾患が増加している。
食物繊維には、糞便増大作用、腸管通過時間の短縮作用があり、発ガン物質と大腸
粘膜との接触が押さえられるため、食物繊維には大腸の発ガン抑制効果があると考
えられている。また、食物繊維のこのような作用に伴って大腸内圧も低下するため、
大腸憩室の発生も抑制できると言われている。
食物中の繊維は糞便量を増加させ、糞便中の水分を増やし、膨張性の下剤的な作
用がある。食物繊維にはセルロ−ス、非セルロ−ス炭水化物、リグニン、ガム、タ
ンパクなどの成分がある。これらには水溶性と非水溶性があり、また腸内で発酵分
解されるものとされないものがある。水溶性成分の方が分解されやすく、その一部
は栄養として吸収される。分解に際して発生する有機酸が腸を刺激し、蠕動を亢進
させる。一方、分解されないものは、そのまま便容量増加効果を示す。
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愛知県薬剤師会
薬事情報部