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女性の中・高年期とからだの変化 1.

     生活医学シリ−ズ No.72
ライフプランニングセンタ−
健康教育サ−ビスセンタ−

 女性の中・高年期とからだの変化@
婦人科の分野では−

  神津 弘(聖路加国際病院産婦人科部長 聖路加看護大学教授)

第2の人生を健康に暮らすには

 ・若々しい・とか・元気・ということばは必ずしも若者のものではありません。近ご
ろは
むしろ中高年の方がたにこそふさわしいと思わせられることもしばしばです。気持ちは
本人のもちようでいかようにも若返れますが、肉体をみると医学的には、加齢とともに
ゆるやかに移行していく節目がいくつか見当たります。とくに女性は生理とそれに伴う
身体の変化から、いくつかの分類をしてみることができます。
 世界一の長寿を誇る日本の女性が、その質においても豊かに幸せに暮らしていくため
に、50歳からのからだの健康保持にとり組んでいただきたいと思います。
どんな変化が生じるか
 人間のからだの機能は、年とともに確実に低下してきます。女性の性機能は、30最
大後半から急速に低下しきます。そのために妊娠する能力が衰え、さまざまな更年期症
状や性活動の減退が現れ、50歳前後には閉経を迎えます。閉経とは生殖能力の喪失を
意味し、ある意味では女性の人生のひと節をつくります。
 しかし、閉経は即、老いと結びつくわけではなく、閉経後10〜15年たってから老
化が始まります。この時期(50〜65歳)くらいが、いわゆる実年(思秋期)ともい
われる時期です。この時期には卵巣機能の活動が終わりに近づき、卵巣から分泌される
女性ホルモンのエストロゲンが少なくなり、からだにも以下のような変調がみられるよ
うになります。
@性器に全体的に萎縮がおこり、組織の弾力性が乏しくな ります。
A骨盤腔内の子宮や・を支えている靭帯や筋肉、筋膜が・ み、臓器の下垂や脱出がお
こります。
Bエストロゲンが減少し、・の酸性化が弱まるため自浄作 用が減退し、細菌感染がお
きやすくなります。

閉経期からみられる婦人科疾患

 では次に、このような変化がからだにどのように現れるかをみてみましょう。
 大まかに、1.炎症、2.腫瘍、3.その他の3つに分けてみましょう。

1.炎症

a) 老人性・炎=黄褐色のおりものや出血がみられ、また・入口部に痒みや痛みがあり
ます。出血がある場合には、がんかどうか見きわめる必要があります。エストロゲンの
一種のエストリオールを注射か・錠で投与し、感染がひどいようであれば抗生物質を併
用します。

b) 外陰・痒症=外陰に痒みがあるときには、トリコモナス原虫やカンデイダ(かび)
などの感染、糖尿病の合併の有無を検査します。ほかに自律神軽性の・痒症もあります
から詳しい検査が必要です。

c) 老人性子宮体内膜炎=主として大腸菌、連鎖球菌がちつから子宮に入り炎症をおこ
します。加齢による萎縮で子宮口は狭くなったり、閉じたりすることが多く、膿が子宮
腔にたまる子宮溜膿症となることがあります。この場合は子宮体がんと見分けをつける
ために子宮内膜の組織検査をしたり、分泌物の細菌検査をして、その結果をみて適正な
抗生物質を投与します。

2.腫瘍

a)子宮頚がん=婦人科悪性腫瘍の85%を占めます。浸潤がんは50〜59歳がいちば
ん多く、次いでその前後の年代に高い発生があります。早婚者、離婚者・未亡人、ある
いは多産婦に多くみられますが、一般に高齢になるにつれて初診のさいには病状が進行
しており、予後の悪い人が多くなります。
 これは、閉経前の不正性器出血を不順月経と誤解したり、性器に無関心であったり、
疾患の自覚が乏しかったり、あるいは羞恥心から婦人科受診が遅れることが原因です。
早期治療によってかなり効果があがりますから、35歳をすぎたら定期的な検査を受け
早期発見に努めましょう。

b) 子宮体がん=主な症状は不正性器出血です。閉経後の人、妊娠経験のない人、家族
に体がん患者がいる人などに多くみられます。
 一般に、肥満、高血圧、糖尿病などの合併症をもつ者に多いといわれていますが、厚
生省の調査によると、日本人ではそう強い関連はないとのことです。

c)・がん=一般に50歳以上にみられますが、そう多くはありません。早期は無症状で
すから、気づかないまま経過することが多いようです。
d)外陰がん=わが国では女性性器腫瘍の3〜4%を占め、やはり50歳以上の人に多く
部位は大陰唇に発生します。 外陰にはこのほかに老人性乳頭腫、外陰ジストロフィー
ベージェット病、扁平上皮内がんなどがみられます。

e) 卵巣腫瘍=45〜49歳に発生のピークがみられます。卵巣の腫瘍は、手術でそれ
を取ってよく調べないととくに診断がつかないことが多いのです。卵巣がんの早期発見
はむずかしく、自覚症状がないまま症状が進行することがあります。腫瘤が発見された
ら、たとえ症状がなくてもすぐに受診し、適切な処置を受けてください。
 最近は効果のある化学治療法剤が開発され、治療の成績も上がってきました。

f) 子宮筋腫=40歳代が全体の60%を占めます。エストロゲンがその発育を促すと
考えられ、閉経後は腫瘍が大きくなることはないといわれています。しかし、ときには
周囲の臓器や腹膜などと癒着して大きくなりつづけることもあります。また、変性した
り、時には子宮内の肉腫やがんなどの合併があるので定期的な検診を受けてください。

g) 乳がん=近年、増加率の目だつがんです。自己検診法をマスターし、早期発見に努
めましょう。

3.その他の変化

a) 性器の下垂や脱出=骨盤底の筋肉が弛緩し、子宮が垂れ下がったり脱出したりしま
す。同時に、ほとんどが 膀胱、直腸なども脱しますが、手術によって治せます。 

b)緊張性尿失禁=咳やくしゃみ、あるいは跳びはねたりして急におなかに力が加わった
ときに、小量の尿が漏れる状態をいいます。これは分娩や下腹部の手術後、あるいは閉
経後などに尿道周囲の括約筋がゆるみ、尿道を閉鎖する力が弱くなったためにおこり、
かなり多くの人にみられます。 肛門を締める訓練をすることでかなり軽快することが
ありますが、括約作用を強める薬もあり、また手術も有効です。

c)機能性子宮出血=閉経が近づくと内分泌機能の乱れから子宮出血が生じやすなります
がんかどうか調べるために細胞診や内膜の組織検査を必ずうけてください。

実年期からの性生活

 性生活は男女双方の理解と精神的な支えあいによって成立します。性機能は閉経以後
もじゅうぶんな能力をもっているわけですが、ただ・を潤す粘液の減少や、・腔の狭小
などで性交困難になることがあります。このような場合には婦人科医に積極的に相談し
てください。ゼリー剤など有効な方法があります。
゛年をとったから……″などと消極的に人生に対応するのでなく、自分に適した生活を
開拓していく姿勢をもちつづけてほしいと思います。

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