生活医学シリ−ズNo.59
ライフプランニングセンタ−
健康教育サ−ビスセンタ−
「肝機能が悪い」といわれた人に
その検査値の理解の仕方
肝臓はどんなはたらきをしているか
肝臓のはたらきはたいへん複雑です。そのはたらきのおもなものは次のようです。
1 食べ物としてとった一次製品の各栄養素やビタミン類などを、体内で有効に利用
できるような二次製品につくりかえる。
2 各臓器がはたらいてつくった物質を体内でもう一度利用できるものに組み直す。
3 体内で不要になった老廃物を直接排泄したり、尿中に排泄されやすい形に変かさ
せる。
4 体に必要なものを貯えておき、各臓器の要求に応じてそれらを供給する。
このような肝臓のはたらきが悪くなりますと、だるさ、食欲低下や吐気、黄疸
むくみ等の症状が現れます。
肝臓の具合は血液の検査から
肝臓の機能を検査するためには、上記のようないろいろのはたらきの面からテスト
することが必要ですが、一般的に行われる肝機能検査ではそのはたらきのすべてを
検査するのは困難です。ですから、健康診断の場合には次の表の中の検査項目から
適宜選択して行われています。
肝細胞の変性・壊死・・・→GOT.GPT ↑
肝細胞の機能障害 ・・・→アルブミン値
・ コレステロ−ル値 ↓
・ 血液凝固因子
・
炎症性反応 ・・・→ZTT.TTT ↑
・ 免疫グロブリン
・
胆汁うっ滞 ・・→ピリルピン値
(閉塞性黄疸) ・・・→色素負荷試験(ICG) ↑
・
・・→アルカリフォスファタ−ゼ
(Al−p) ↑
γ−GTP
コレステロ−ル値
表 肝機能検査の意義(検査値↑上昇、↓低下)
肝臓に異常がおこると、血液の成分に変化が生じます。そこで、肝臓機能検査は主
として血液についての検査が行われることになるわけです。
おもな検査とその反応
肝機能検査でもっともよくいわれるのは、GOTとGPTでしょう。これはいず
れも体内の臓器の中に含まれている酵素ですが、肝臓にはとくに多く含まれていま
す。(酵素とは体内でいろいろな物質を分解したり合成したりする反応を助ける役
目をするものです。)
肝臓になんらかの障害が生じますと、GOTやGPTは肝臓から血液の中に放出
され、その値が高くなるわけです。
アルブミンは、肝臓でしかつくられないタンパク質ですから、肝臓のはたらきが
悪くなりますと、血液中の値が低下します。
コレステロ−ルは、食べ物から摂取されるもののほかは、肝臓でつくられるもの
が過半数を占めますから、肝硬変などの場合にはその産生が減り、血液中の値も低
くなります。また、コレステロ−ルは胆汁に含まれて肝臓から腸へと排泄されます
が、その排泄の通路となる胆道のどこかに障害がおきて閉塞性黄疸となりますと、
血中の値は逆に高くなります。このような場合には、胆道に関係の深いアルカリフ
ォスファタ−ゼ(Al−p)やガンマ−GTP(γ-GTP)も高値となります。
ビリルビンの大部分は赤血球の破壊産物で、肝臓に取り込まれて胆汁色素として
糞便の黄色の色素となって排泄されるのですが、赤血球が普通以上に壊れたり(溶
血性黄疸)、肝臓の病気や閉塞性黄疸のさいには血液中の値が高くなり、3r/dl以
上になると体が黄色くなります。これが黄疸です。
ZTTやTTTは、試験管にとった血清に亜鉛やチモ−ルのような金属を含んだ
試薬を加えてその混濁をみる検査で、血液中のタンパク質の成分のバランスによっ
て影響を受けます。慢性肝炎や肝硬変のときにはこれらの数値が高くなります。
肝機能検査に異常値があった場合
健康診断のさいに肝機能検査に異常値があるといわれても、必ずしも肝臓の病気
とは限りません。それは、肝機能検査が血液によって行われているために、肝臓以
外の病気で異常値が出現することもあるからです。たとえば、GOTは心臓や筋肉
あるいは甲状腺の病気などでも高い値が出ることがありますし、アルブミン値は腎
臓や消化管の病気で低値となることがあり、ZTTは肝臓以外の慢性の炎症や血液
病などでも高い値を示すことがあります。また、Al-p は甲状腺機能亢進症や骨の
病気、あるいは思春期以前の骨の成長が盛んな時期には病気でなくとも高い値を示
す、などです。
ですから、健診で肝機能異常を指摘されたとしても、それがほんとうに肝臓の病
気によるものかそうでないのかをはっきりさせる必要があります。一概に肝臓の病
気といってもその原因はさまざまで、治療法、食事、安静なども病気によってはま
ったく逆の場合もありますから、精密検査が必要となるわけです。
その代表的な例が脂肪肝です。原因はいろいろありますが、とくに肥満者によく
みられるものです。この場合には、慢性肝炎や肝硬変の場合のような高カロリ−食
や安静は逆に肥満を助長させ、かえって病状を悪化させることになります。脂肪肝
の場合には、むしろカロリ−制限と積極的な運動で体重をコントロ−ルすることに
よって肝機能は改善されることになります。
肥満傾向のひとでも慢性肝炎や肝硬変がないわけでわありませんから治療の方法
を決める前には肝臓の精密検査が必要であることはいうまでもありません。
正常値をどう考えるか
残念ながら、日本ではいまのところ一定の検査方法が決められていませんから、病
院や検査室によってその正常値も違ってきます。ですから、受診先の正常値と自分
の数値とを照らし合わせてみる必要があります。同じ検査項目でも、測定方法の違
いによって正常値も違ってきます。それは、同じ長さでも、メ−トルかインチか尺
によって読み取る数値が違ってくるのと同じことです。
定期的なチェックを習慣に
肝臓はたいへん重要なはたらきをしている臓器ですから、ひの予備力も8〜10
倍もあるといわれています。したがって、肝臓に病気があっても、自覚症状が感じ
られないことが少なくありません。慢性肝炎や肝硬変初期の場合には無自覚か、あ
るいはやや疲れやすい、お腹が少し張る、食欲がややおちるといった程度の軽い症
状しかないことも多いからです。
ただし、急性肝炎の場合は、発熱、はげしいだるさ、食欲低下、吐気、腹痛など
を訴えますからすぐに医療施設を受診することになりますので、的確な診断が下さ
れます。
薬を長期に服用している方へ
肝臓の病気以外で長期にわたって薬物治療をうけている場合には、薬剤アレルギ
−性の肝障害を起こす方もあります。おなかの調子が変わったときなどには、自分
から積極的に肝機能検査を受けられるのが賢明です。