尾台榕堂 の『方伎雑誌』を読む .2

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薬物を撰品することに医師として専心しなければならない.偽品は厳禁であるが,商い
を好む者はただ利益を求めるので偽物がままある.また薬の真偽,薬効の有無などもあ
まり知らない.また例え偽物,◆物でなくてもその産地採取時期,および◆◆乾の時期
,気候の良し悪しで薬効の低い物がある.第一に気を付けるべき事である.
諺に『薬を採るものは両眼,薬を売るものは片眼,薬を作るものは無眼』という.恥ず
べきことだ.心を尽して撰品しなければならず.これについては次巻に論じる.
物◆◆の『医言』,『素難評』,山県周南の『周南医談』山県柳荘の『医事撥乱』など
は一覧するべきだ.儒学者の理論であるから隔靴掻痒の記述もあるが卓見も少なくない
.東洞先生の『類じゅう方』『方極』『薬徴』『医事或問』は必ず熟読すべきだ,『医
断』『建殊録』は門人の◆◆であるがよく講習するように.『東洞遺稿』も医論が多く
述べられている.これも読むべきだ.すべて東洞先生の著作は空論憶測がない,学ぶ者
は必ず一部ずつ所有して精研すること.『丸散方』『方極或問』は未定の書物であるが
,これも所持すること.後藤◆山の『病因考』息仲介の『傷風約言』山脇東洋の『臓志
』『養寿院医則』福嶋喜又の『芳翁医談』香川修庵『行余医言』独しょう庵『漫遊雑記
』,荻野元凱『刺絡編』『吐法編』舟山寛『医論』多紀桂山『素難解題』息◆◆の『時
還読我書』など,その説の良し悪しあるが一読するのに大いに見地が広がるであろう.
賀川子玄の産術や華岡青洲に瘍科などといった,実に希代の絶技には前出がない.これ
はをの人の努力の賜物である.ただ産論は皆川洪園の著で産論翼は柴野栗山の著作であ
る.従ってその優れた技術を文章にし難きところがある.たとえ自筆であろうと文章は
では全てを表現できない.如何とも形容し難いところである.ただその書を熟読,吟味

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して文章にない真意を得るのである.だから,ただ安穏として日々を過しておればその
意味を理解し得ない.青洲の『医談』も良説が多いが門人の筆記であるため.青洲の意
志をうまく伝えてはいない.また,伝写の誤りも多く惜しい限だ.
医書は和漢共にあまり−−,−−しないことだ.宋,元以降の医書はなおさらである.
大家,名家と称する人は返って空論,医説を事々しく述べて−−−−−.その実は−−
−−−.これは−−−−のみ多い.これは生理学が盛になり医風,古くとは大いに変化
したためである.その他煩雑な理論はみるべきではない.返って患者を惑わせてしまう
.害あって益なし.
産育は婦人の通常の行いであるから事あるときは服薬し,腹部はあまり按撫動揺しない
ほうがよろしい.現在は賀川流と称して整体術などを妊娠中であっても頻繁に行うもの
あり.種々の新法を加え按摸,抗摩するのは返って良くないと思われる.ただ,横逆,
死胎などは手術で娩脱するのは良いことだ.その他はあまり人智を用いべからず.
ある,新産婦が一ヶ月に5〜6度整体術といって按撫した.すると産後胞衣がまだ下ら
ぬうちに,不正出血が甚しく陰部に包帯を挟んでいるので産科の手当も行き届かず内科
◆◆◆◆色々と手を尽くしたが効果がない.調度その地に他の患者の往診があり,たま
たま診療を請われた.この患者を診察すると血◆,煩乱,四肢痙攣,◆◆◆◆,顔面四
肢振◆して,意識がもうろうとしている.腹中鳴動して出血もひどい.私は少し診て辞
して去った.尋ねるので助からないだろうと言った.この人などは妊娠胎を整体すると
いっても月に5〜6度ずつ撫按して,さらに臨月にも腰腹を撫按,摩抗してこのように
なったのだ.平素より自然に任せておれば良いものを,余りに手を加え過ぎて異常を生
じたものかと思われる.賀川流も未熟,拙劣では反って害になる事もある.諺に「病人
もと無事,庸医これを殺す.天下もと無事,庸相これを乱る.」とある.★★あに確論
ならずや★★

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ある婦人を診察した.その婦人は生理不順で3〜4月飛んでいる.両親は妊娠かと思い
私に診断を請うた.妊婦は体質壮健で躯胎充実肥バン◆である.平素は大便を5〜6日
に一度あるがまた直ぐに秘結するという.この婦人を診察すると腹は布袋さんのように
大きく,しかし悪阻は呈していない.私は家族に「これはただの閉経で身重ではない.
」と告げ,その腹満便秘は甚しく脚に攣痛をするのを目標に大承気湯を与えた.大便日
々4〜5回,7〜8日を経て腹の張った症状がおおいに楽になったという.
後日再び診察を請われた.その◆は私の知己である.私に向って「貴方の診察は下手で
ある」とアザケル◆.”どうしてだ?”と尋ねると”新婦がいかにも妊娠かと思うので
助産婦にみせたところ一按したところ妊娠に間違いない,と言った”と主人が言う.私
の◆◆−−−−.ここでこの婦人を診察すると,腹満減じ柔軟である.子宮横骨の上に
隠然と現れ,私は手を叩いてその妊娠を喜んだ.しかし心中は恥かしいかぎりだ.はじ
め診たときは腹満脹してまるで布団の上から探るようであったが,今は真綿の上から按
ずる感覚である.助産婦にも分る訳だ.私は初め家族に”先ず腹部を和げ脚痛を治療す
るうちに,妊否も分るであろう”とうっかり言い忘れていた.言わなかったのはこちら
の落途である.誹られても仕方がない.また,実に診療の行き届かないことだ.この分
では生涯,庸医の域を出れないと後悔した.私が26才の事である.これより40年余
り,妊娠の診察は一人も誤らず.−−−−.

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悪阻の症状に嘔吐,腹痛を訴え,回虫症や留飲症に似ているところがある.また気欝,
寒熱,咳をして乾血労(※結核性疾患)に紛わしいものもある.眠らず,食せず,泣き
悲しみ,肝欝あるいは??(※肺結核)の初期に類するものもある.医師の多くは誤診
するところだ.また生理が滞って乳房が黒く乳もしぼれば出て,助産婦が産帯を施し腹
も次第に大きくなって行く.9〜10ヵ月になるまで妊娠と認めている者の一診して妊
娠していないことを決めるのは容易なことではない.私は40年来一人も誤診はない.
先の新婦は私の先生といえる.全てが妊娠ではない.諸病の診察でもその通りだ.

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