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尾台榕堂 の『方伎雑誌』を読む .5


                                                  
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また,その説の多くは憶測の域を脱せず実際的な記述は少いであろう.従って先生は病
因の説を一切排除して,ただその証に随い病毒を去ることを説いたのである.この場合
は傷暑,こんな時は傷寒,これは傷食と病因に限らず治療を施して,処方の運用は自由
自在になった.これが万病一毒説ではないか?例えば仏氏の三界唯一心というのもこれ
である.貪り,●,愚痴,の三毒もその根本は一心から生ずるものである.故に一心を
よく導けば何もかもよく治るのである.治療の種々の憶測空論によらず,病因の論説に
拘らず,ただ腹証外証を詳かにして,病の主とするところに随い処方すれば諸患消滅す
る.−−−−.先生の説に随い治療を施して自得することだ.
万病一毒説を素人にも分るように村井大年が説いているが私は受付けない.新崎丈庵の
説も『古方大意』に見えたり.これもまた随うべからず.
医は名声と金欲の念を第一に慎むべきである.名を得る程の才能のない人にも利欲は必
らずあるものだ.陽貨は「富をなすものに仁ならず,仁ならば富まず」と言う.誠に千
古の名言である.己を利せんと心掛ける人は,人が不利となることを何とも思わないも
のである.天地の長久であることに比べれば人の一生はわずかに一局の芝居の如し.そ
のわずかなる一生に目の色をかえて名利に務めることは何になるであろう.しかし商売
は利益を求める業であるから利を争うのも尤であるが,医人が富を欲するとは甚だ心得
違いである.私は50年間世の中を観ていると,医人の心を砕き金銭を増やすことに務
め,土地を買い求め,或いは病家の−−−,或いは権力者にへつらい,−−−−不詳の
孫が出来て家道を継承出来るかどうか.金銭は土瓦の如く使い捨て,果は他人に迷惑を
掛ける.或いは子がなく他人にかかり血脈も断絶して他人の家となるものもある.

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そうすれば己れ一代の栄華は釈尊の曰く,夢幻泡ろうの如し.----------------------
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私の弟子の佐藤良貝は,清水公の藩医良円の弟である小川祐斎の養子となった.その祖
父竜眠は会津の出身で奇人であった.性格はややもすると人を罵る癖がある.●って荒
川土州君の夫人が長く患い−−.竜眠が診療を終って調剤しようとすると荒川君がその
主方を聞いてくる.すると竜眠は怒りだし厳然として言った「医者でもないのに処方を
聞くとは何事であるか.」君は幼いときより容悦な医者しか知らなかったのでとても胆
を潰した.竜眠は「私が不器量であるがゆえにこのような事を蒙るのだ.私は今日で医
業を廃する.」と言い,君の前で薬箱を微塵に壊して帰ってしまった.竜眠は奇人でそ
の術もまた風変りである.君は再び竜眠を召して治療を乞うた.竜眠の治療によって夫
人たちまち回復した.その後土州君は清水藩の付となりその薦挙により竜眠は清水邸の
侍医となった.
人はこの気概あれば何とかなるものである.--------------------------------------
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疾患に治療する疾患と,治療できない疾患がある.不治の中にも手遅れと重病は薬の効
果をまたずに死に至る場合がある.その人の不幸と言うべきである.また治療できなく
とも病を持ったまま死なないものもある.不思議なことである.東洞先生は”方法を誤
らねば即ち病は癒えざるなし”と言われたけれども,これは私如き庸医には了解し難い
ものだ.●えば”性は相近し習いは相遠し”というが善を以って教導すれば賢人は君子
ともなる.
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これは薬が効いて疾病が治癒するのと似ている.もしその人に教えず放っておけば凡人
のまま終るであろう.これは薬を用いなかった場合である.またどのような治療を施し
ても中には薬の効かぬ者もある.これは下愚が直らない場合だ.下愚の直らない者はど
のように教え導いても改善しないものだ.病人も同じで百方手を尽しても治癒しない者
もあろう.この場合は或いは死に,或いは廃人となる.故に治せない疾病を知るという
ことは,治せる疾病を知っているということである.ただ患者の迷いを生じ途中で治療
を転じる,或いは薬に●みて返って病んでしまう.故に治する病も逆に至る事がある.
廃人となる事がある.●ずることだ.−−−−−

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薬物の選択効用は『薬徴』に詳かにしている.ただ古今時世により,少しずつ異るとこ
ろもある.また私が好んで試行したものもある.よって一〜二を書いて弟子に示すこと
次の如くである.

芒硝
少しも水気のないものを用いる事.市場に唐芒硝と称するのは,実は大阪で製造したも
のである.水気無く佳品である.風気を受けると真白に変色し玄明粉のようになり,効
果が無くなるので注意する事.百年来は芒硝も処処より●●するので唐より少しも来る
ことはない.●少翁先生から消石を用いており芒硝は一切用いず.消石も水気なく●●
という物佳品である.堅塊を砕く効力は芒硝の及ぶところではない.
芒硝は丸薬には用いられない.『本草綱目』には水消,火消と二種類に分ちその性質や
効用を細く論じている.今,試験するのに性質の異る所もなく効力は消石の方が勝って
いる.東洞先生は『薬徴』に芒硝の効力が勝っていると述べられているのは唐芒硝の事
であろうか,不明である.朴消は地上にあるものを採取する.煎煉して芒硝,馬牙消,
英消の三品となる.

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